領域代表者から

デジタル技術を用いてきめ細やかな精神のケアを実現する

国立精神・神経医療研究センター
認知行動療法センター研究開発部長
伊藤正哉 博士(心理学)

メンタルヘルス、心の健康はこの地球上のあらゆるところで大きな問題となっています。
歴史的にも、永らく深刻な問題であり続けています。
とりわけ、うつ病や不安症は将来も人類に大きな負荷を与えると予測されています。

学術研究や科学において、これまで膨大な研究が積み重ねられてきました。
そして、どのような心理療法が有効であるかがわかってきました。
より確かに、人の精神のケアを届ける。そんな時代が開かれつつあります。

しかし、心理療法を代表とした精神のケアは、現状において決して万能とは言えません。
一定の割合の人は、十分に回復しません。
心理療法のなにが、だれにとって、どのように作用するかも、多くは未解明です。
そして、セラピストの訓練には、数年にわたる膨大な時間と労力を要します。

とてつもなく沢山の人が、こころの苦しみを抱えています。
そうした人を目の前にして、たくさんの人が、手助けしたいと考えています。
しかし、人の手が、専門家の支えが、どうしても十分に届かない現状がつづいています。
次の時代に向けて、この現状を打開できないか。

言葉、声、表情、身振り、場、文脈、関係、物語…
心理療法は、人と人のコミュニケーションのうえで営まれます。

これまでの科学研究では、これら多種の側面を、高精細なデジタルデータとして扱う試みがあまりなされてきませんでした。しかし近年、様々な分野において、大量のデータを取得し、人工知能技術によって状態を識別したり、物事の結果を予測したりする試みが発展しています。

本学術領域ではこれらの最先端の情報科学技術を用いることで、これまであまり扱われえなかった心理療法のなかでの言葉や音声のデータを解析し、人の精神的な状態を識別したり、心理療法の効果を予測したりできないかと考えました。こうした基礎技術が開発されれば、人の手にのみ大きく依存していた精神のケアに、デジタル技術による支援を加えていけるのではないか。そう期待しています。

多種の、高精細な、大量のデータを用いて、
よりよい精神的なケアを実現しようという、あらゆる試み。
それが、私たちが育んでいきたい学術研究領域、『高精細精神ケア』です。

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